クリスマスカレー
今年最後の見積もり打合せの日12月24日でした。
前回の打ち合わせから具体的内容もつめるために、
御邪魔をしました。先日、同じ棟でリフォームを
終えたばかりのお客様から、見学希望があったら
どうぞと言って頂いていたので連絡させて頂いたら
気持ちよく見せて頂くことができました。御主人が
私達との仕事のやり取りなどを施主の立場からの
情報としてお話しくださって、今回のお客様には
私達の提供できない安心を伝えてくださり大変
ありがたく思いました。 さて、無事契約も済ませ
長居をお暇しようとしたところ、 奥様お手製の
遅めのランチにお誘いいただきました。当日は
近々リフォーム御希望のお客様の御友人も
同席となり、御夫婦2組と我々2人の6人での
思いがけないクリスマスイヴとなりました。
奥様は長年お茶の先生をなさっているせいか
テーブルセッティングもおしゃれで、かといって
堅苦しくなく早速写真を撮らせて頂きました。
クリスマスカレーと、ローストビーフ、サラダ、
ポトフなどなどたくさんのお皿が並び、更に
デザートにはお手製のケーキまで登場の
豪華版でした。お食事と同年代の楽しい話に
夢中になり、お料理の写真を撮り忘れてしまい
後で残念な思いをしました。 帰宅後、撮った
写真を家人に見せたところ、おしゃれな
テーブルセッティングに興味津々で、お料理の
写真も見たかった~と、珍しくお正月料理に
意欲を燃やし始めているようでした。
今回お客様のお気遣いが私達のまわりに
心地よいさざ波をたててくださった一年の
締めくくりでした。
共同作業
お客様からは様々な御相談をうけます。昨今では
ネットなどで勉強され様々の情報を得られた上で
見積もりに臨まれるお客様も多くいらっしゃいます。
先日リフォームをさせて頂いたお客様も、そんな
お客様のお一人でした。しかし時にはお客様の
御提案をそのまま反映させない場合もあります。
それは技術的な問題というよりもネット情報には
載せられることのない経験情報と現場の条件から
くるものです。今回もご提案が必ずしもベストな
選択ではないと判断し、御希望の材料を使用した
場合のデメリットを全てお話しさせて頂きました。
しかし起こりうるマイナスの想定をも御承知の上
最終的にお客様はゆるぎなく最初の御希望を
選択されました。そうと決まればするべきことは
ひとつです。如何にデメリットを小さくするかです。
今回はフローリング材の問題点解消のために
既存のフローリング剥しと下地処理に特に時間と
手間をかけました。リフォームは新規に作るより
数段技術と手間が要求されます。それは次の
リフォーム時に否応もなく明らかになるものです。
今回はそのために格闘をしました。この条件下で
ベストの仕上がりを目指すことは今回の成功に
つながるだけではないのです。各職人が意地を
見せてくれたおかげで想像以上の仕上がりを
得ることができました。これもお客様と私達が
とことんやりあった成果です。完成後のお客様の
満足そうな顔を見て、まさしく今回はお客様と
我々との共同作業なのだと、つくずく思いました。
その後は、見学希望者を快く受け入れて下さる
このお客様からは多くを教えられた気がします。
用の美
さて我が家も大規模ニュータウンの一角にあり、
一つのリフォーム例として、お近くのお客様には
時には参考にして頂くこともあります。
ところがある日、同じ敷地内の当社リフォーム後
10年のお宅を訪問させて頂くことがあり、玄関を
入って各部屋を拝見した瞬間、驚きました。
空間の仕切り方・使い方・光の取り入れ方と、
飾りや置物との調和等,一つ一つどれも自然で
ほっとする優しさがありました。置いてある物は
趣味の良い家具と、奥様の書を活かすために
ご主人が竹や流木をアレンジした手作りのもの
でした。それらには使われてきた時間が流れ、
心地良い安心な今が感じられました。使う物に
いい按配に占有されてこそ活かされるのだと
いうことを実感させられました。空間を占有する
ものは日常よく用いられるものであるはずで、
よく使われるという事は美しいということなのだ
という<用の美>という言葉を思い出しました。
日常に当たり前のように使われ古びたり摩耗
したりしながらも、或いは滅びてゆくものの
美しさを用の美と言うのなら、我が家もいつか
感じられるだろうかと思いながら帰宅しました。
見事なお一人様
この所ご伴侶を亡くされたお宅からの工事依頼が
続きました。ご主人様或いは奥様がお亡くなり
お一人になられてからの日が浅い事と、お子様の
有無に拘わらず一人住まいを貫く姿勢も共通して
いました。直近のお客様は四十九日法要を自宅で
営むために亡くなられた奥様愛用のお部屋を除き
すべてのお部屋を改装されました。奥様のお部屋
だけはそのままにしてご自分はそこでおやすみに
なるそうです。工事中3時には冷えたスイカを
下げて戻ってきては振舞ってくださいました。
問わず語りに伺う奥様とのかつての日常には、
さりげない幸せが滲むようで喪失の悲しみよりも
むしろご主人の満足感のようなものを感じました。
そのせいか工事中はいつも奥様がそこここに
ご主人とともに気配りをしてくださる感じがして
終了時には思わず真新しい仏壇に終わりましたと
報告してしまいました。その前のお客様は、
逆にご主人を亡くされた奥様でした。
打ち合わせ後に印象的な話をされました。
「主人を亡くしてすべて失ったような気持になり
これからもどれだけ失っていくのだろうと思って
いました。しかし実際は失うものより得る物の
ほうがはるかに多いという事に気づきました」。
ご子息は既に独立されているので、これからは
できる範囲で一人で暮らしを快適にしたいと思い
リフォームもその一環として決心されたそうです。
ですから琉球畳など多少贅沢なリフォーム内容も
検討されていました。勿論これも亡きご主人様と
築いた物心両方の色々なものがあってこその台詞
と行動力です。こうしてお二人のほんのりとした
幸せを垣間見させていただき、いつも日か我々の
どちらかが味わう 長い老後の穏かな日々は、
一日にしてならずということに気がつきました。
お客様から教わる
今回のお客様のお宅には見積もりに伺った時から
大変に惹かれるものがあり ました。それは経年に
よる傷みや汚れといったものを超える何かでした。
工事をしながらもそれを感じ続けていましたが
終了したころには、これだったんだと仕事への
指針を与えて頂いたようで納得がいきました。
間取りはごく平均的なもので格別広いわけでは
ありません。ですが、置いてある家具は大事に
使い込まれどれも手や身体になじむようでした。
それらの家具と壁、部屋、扉などがつくる空間に、
々の清潔で誠実な暮らしが続いた長い時間が
見えるようで何か心打たれるものが ありました。
自分は便利・綺麗を最優先にするリフォームでなく、
そこに至るまでの時間をかけた生活の、心地よさを
消し去ることのないリフォームをしたいのだと、
その時はっきりと意識する事ができました。
しばらくして田舎の母の作った泥付き野菜をお届けに
伺ったところ,玄関脇の書斎では、素敵なジャズを
聞きながら木工彫刻をなさるご主人が見えました。
早めのバレンタイン
リフォームが始まると、実際に作業に当たるのは
私達なのですが、 実はお客様との共同作業なのだ
ということを今回もしみじみと実感させられました。
工事内容がほとんど同じでも各々のお宅によって
完成後のお客様と私達の精神的満足度は同じとは
限りません。何故だろうと考えると不思議ですが、
それはお客様とのハーモニーに負うところが大きい
からなのです。それはひとえに我々とお客様との
コミュニケーションが成功しているかどうかに
掛かっています。工事の流れの中で生き物のように
変化してゆく現場を、実際にお客様に見て頂いて、
お客様の反応を確かめながら作業を進めます。
直接的なご要望や疑問点を頂くことも重要ですが、
休憩時に交わすおしゃべりも無駄ではなく、何かが
スムースに循環するきっかけになったりもします。
お客様が私達の作業を充分理解して頂いた上で
ある種の参加をしてくださった場合、私達の作業は
スムーズに進みます。その点で今回のお客様とは
大変に気持のよいハーモニーを奏でる 事が出来たと
感じました。お客様も同様に感じてくださったのか、
最後の日に「早めのバレンタインですが・・・」と
おっしゃって、素敵な包みのョコをレゼントして
くださいました。後ろで「僕には・・・?」と
ご主人のつぶやきが聞こえたような気がしました。
気持ちの良い若者
若いカップルにとって新居獲得の傾向にあるらしく
あちこちにおしゃれなマンションが建ち、立地の
良い物件は瞬く間に制約マークが付いていまいます。
そんな折ある若夫婦から築20年以上の中古物件の
リフォーム依頼を受けました。頭金と仲介手数料を
二人の貯金から出し合い、その残りで自分達の
目指すライフスタイルに近づけるべくリフォームを
ということで打ち合わせをしました。新築物件には
最新式の便利な設備やおしゃれな外観など若者に
とっては大きな魅力があるのは当然です。
今回彼らが負担した金額をば新築を手に入れるのに
充分なものでした。ですが彼らは成熟した静かな
町並みや見事な植栽などの環境を選択したのです。
共働きの二人は休みごとにリフォームの進み具合を
見に来るのを楽しみにしているようでした。
最後に若奥様から気持ちですとおしゃれなお菓子を
頂いたときはこちらもうれしくなりました。
自分たちを正当に量ることのできる堅実で謙虚な
気持ちの良い忘れらない若夫婦でした。
忘れられないお客様
プライバシーをある一定期間共有せざるをえない
職業があります。例えば家政婦さん、タクシーの
運転手さん、引越屋さんなどなど、そして私達の
リフォーム屋もそんな職業の端くれにいます。
こうしたプライバシーに関してとる態度としては
難しいものがあります。無機的に一時の風の様に
私達に接してくださる場合もあり、家族のように
接してくださる場合もあります。どちらの場合で
あっても忘れられないお客様 がいらっしゃます。
そのうちのお一方のお話です。ある日突然一本の
電話。末期がんで入院中のご主人が数日のうちに
退院となり、ご主人の部屋を大至急リフォーム
して欲しいというご希望でした。とにかく時間を
争う内容でしたので手元にある材料を使って
一日で仕上げました。奥様が事情や好みを具体的に
お話してくださったので色々制限がありましたが
気持ちのよい仕事をさせてもらいました。その後
一年ほどした日、奥様からお電話を頂きました。
ご主人はやりたいことはすべてやり、気に入った
部屋から気に入った 風景を眺めながら、何の
悔いもないと仰って安らかに逝かれたそうす。
そのご主人が撮りためた写真でつくった翌年の
カレンダーをその時にいただきました。
季節ごとの風景にふとご主人の視線が感じられ
お人柄が偲ばれました。ご主人様とは言葉も
交わせませんでしたが、お二人には教えられ、
頂くもの多く、有難うございましたと心の中で
手を合わせた、忘れられないお客様でした。